きっかけはこの本
何週間か前に「トーキョーノスタルジックラーメン」という本を買った。2008年に出た本で、荻窪の「春木屋」に始まり、浅草の「来集軒」や豪徳寺の「満来」など、知ってる人は知っている東京の老舗ラーメン店が紹介されている。
この本が他のラーメン本と違うのは、ラーメン業界のブームとは別の、“ずっとそこにあった味”をテーマにしているところ。創業50年を越える古い店が中心で、どの店のラーメンもシンプルで飾りのない「THE・ラーメン」といった感じのものばかり。
もちろんどの店にも、長い時間を生き抜いただけの理由があり、日々丁寧に作られたラーメンを提供しているからこそたくさんの人に愛され、ここに取り上げられているのだが、単純に店の外観だけを取ってみれば、いかにも町なかの中華料理屋な感じで、こんな風なの近所にもある!というような店ばかりだ。
私は、6年ぐらい住んでいるこの町の中華料理屋に入ったことがほとんどない。あ、この町というのは豊島区の千川というあたりです。
なぜかと自分に問いかけるに、「福しん」「ぎょうざの満州」という、安くてそこそこうまい中華料理のチェーンが駅前にあるのが大きい。「なんとなくラーメンとかチャーハンとか、そんなようなものが、まあ食べたいな…」ぐらいのぼんやりした気持ちだったら、もう間違いなくこれらの店で満足。で、「どうしてもあれ系のラーメンが食べたい!」といった強い気持ちがあるのなら、遠くない距離にある池袋にでも出れば名店がひしめいているわけで…。つまり、わざわざ美味しいんだかどうだか分からない未開の中華料理屋に飛び込む必要がないのである。
しかし、前述の本を読んだこともあり、この機会に近所の中華屋をめぐってみることにした。なんでもないラーメン、海の家とかサービスエリアとかで食べる平凡なラーメンが不思議なほどグッとくる時がありますよね?あの手のラーメンに出会えそうな気もする。
毎週日曜日に1店ずつめぐってみることにしました
特に理由はないが、毎週日曜のお昼に自転車で出かけて一番シンプルなただのラーメンを食べて帰ってくる、という方針を決めた。それにしても、食べログとかで調べてみると、中華料理屋が近くにすごい数あって驚く。すごいといっても隣町ぐらいまでを含めて10店ぐらいだけど、この特に何もない町にそんなに多くの中華料理屋があったとは、今さらながら驚いた。
とにかく、食べログで探したり、実際にそこら辺を走って探したりしてお店をめぐってみました。
1軒目:博雅
ある日。
近所のラーメン店の中では(っていうかそもそもラーメン屋専門店がないのだが)ダントツ人気の「つけ麺 たけし」の行列

を横目にやってきたのが「博雅」。

いい光がさしてる
ここは何度も通っていて、いい店構えだなーと思っていたのに今まで入ったことがなかった。

店先のサンプルもいい
暖簾には電話番号の語呂合わせで「サークイナ ヨククーワ」とある

ヨククーワ…(呆れがちに)
引き戸を開けた瞬間、ここにこういう空間が存在することが、目の前にあるのに信じられないような、不思議な気がした。お店のおじさん、おばさんがいて、お客さんもいる!そりゃそうだけど不思議だ。
午後の日差しが差し込む開放感のある店内に、金魚の泳ぐ水槽。先客には、新聞を読みながらビールを飲んでいる人や、家族連れの姿など。醤油系ラーメンだけで

ずらー
こんな感じで、ここに塩・味噌ベースもあるのでラーメン系メニューはかなり豊富。もちろん、丼も定食も餃子もあります。とりあえず500円の「ラーメン」をオーダー。
待つ間に飲み物メニューも凝視。

レモンサワーなんかも
軽く一杯飲んで帰るのにはちょうどいいのかも。実際、店に入ってくるなり「ウーロンハイ!」って元気に叫んで席につく老人とかいた。
店内ののんびりした雰囲気に身を任せていると、来た来た。

そうそう!こういうの!
具材はネギと海苔とメンマとナルトとチャーシュー。必要なものはすべてある感じ。早速いただきましたが、うまい!もう少し“なんでもないラーメン”を求めていたのだが、これはまったくちゃんとうまい!特にここがすごい!とかいう点は無いけど、鶏がらスープに麺がよく絡んでおります。
いやー、これは他のメニューも試したくなってきてしまった。
2軒目:清華園
ある日。
今日は路地裏にひっそりとたたずむ、かなり見つけにくい店に挑む。近所にありながら、住んでから数年してやっとその存在に気づいた。

味わい
店の中に入ると、ここにもやはり水槽が!

小さなお魚いました
この水槽が、なんというか、いきなり気分をずーんと落ち着ける効果を生んでおります。
客は自分だけ。高い位置に置かれたテレビから流れる「開運!なんでも鑑定団」の音声に気が遠くなってくる。ふと見ると、かなり古い型のテレビで、今のテレビの横長の画面に対応していないため、両端がバッサリ切れている。なので「本人評価額」が「0万円」みたいに表示されていて、私は本人評価額が知りたくて知りたくてたまらなくなってしまった。
と、いったところにラーメンきた!450円。

原始のラーメン像
こちらは見たとおり具材からしてかなりシンプル。刻みネギ、海苔、メンマ、チャーシュー。
いただいてみます。うおー!なんでもねー!いや、少なくとも私の基準からして全然マズくはない。なんというか、味がこっちまでやって来ずに交差点の向こうで手を振って、少し微笑んでどこかへ行ってしまったような。追いかけても掴めない味わい。素晴らしい程になんでもない!中太の麺はちょうどいいモチモチ感。
店内には割りと頻繁に電話が鳴り響き、どうやら出前の注文が来ているらしかった(モヤシソバが人気だった気がする)。こういう中華料理屋では出前をやっていることが多いので、店内での客足だけでその店の繁盛具合ははかれないところがあると思う。
3軒目:銀楽
ある日。
ネットで調べて見当をつけていたお店の前を通ると、今日は営業していないようだった。できるだけ近所で探したいところだが、自転車を走らせているうちに「椎名町」まで来てしまった。ここは千川より断然栄えている。選択肢が豊富だ。すぐ近くに「タカノ」という美味しい大衆中華もあるが、もうだいたい美味しいことが分かっているので別の店を探す。
駅前の狭いアーケードの商店街に並ぶ「銀楽」へ。

いいねえ
衆院選の当日だったこの日。斜め前方の席で食事中の老紳士が、突然お店の方に「選挙は、いった?」と聞いた。が、ちょうどその瞬間に新たな客が入店してきて、その言葉は宙に浮いてしまった。新客が席につき、お店の方が水を運んで注文をとったところで、改めて「選挙、もういった?」と聞く老紳士。今度は、店員さんが「…うん」と返事を返したが、それに対して何を言うでもなく無言のまま老紳士は店を出ていった。
なんだこのやり取り!想像もつかない独自のやり方で投票率を集計する老人なのか?!
メニューを見ると、安い!正油らーめんが350円。

良心価格
メニュー右上の一番最初に目に入るところに鎮座している「とんかつラーメン」が気になるが、ここはガマンして正油、いきます。あと320円の餃子も!
なんだかピンボケな写真で申し訳ありませんが、ラーメンきました。

2品で670円
350円でこれは素晴らしい。わかめにメンマにナルトが2枚にゆで卵が4分の1、ネギほんの少々。お味は、うまい!こちらもかなりのなんでもなさが出てます。どこがってわけじゃ全然ないけど美味しい。ラーメンってどう作ってもある程度うまいんじゃないの?とすら思った。
にんにくの効いた餃子も美味しかったー!テレビもラジオも流れてない静かなムードが沁みる店でした。会計時に商店街の福引券を1枚もらったのでやってみると、10円玉が1枚当たった。
4軒目:鳳園
ある日。
先週休んでいたお店、今日も営業してなかった。外観からするに、すでに潰れているのかもしれない。仕方ないんで、と、自転車でウロつくうちに「鳳園」を通りがかる。

何度も通ったことあるけど初入店
手書きの看板がいい味を出していると同時に少し不安を誘う。

が、意を決して入店!カウンターが7席ほどに、4人がけのテーブルが3つ。
父・母・高校生ぐらいの息子の三人が食事をしている。お父さんはビール。息子はお店の漫画棚から「金田一少年の事件簿」を取りだして黙々と読む。テレビには駅伝の中継が映し出されている。別のテーブルにおばあちゃんが一人座って、結構大きなドンブリからラーメンを啜っている。あー、自分の知らないこんな空間に流れる時間があったんだな。
「らーめん」480円を注文します。 こちらもラーメンから丼から定食から何でもある。カレーライス、ドライカレー、チキンライスまで揃う越境ぶり。
さあらーめん

パッと見はどこもだいたい一緒
具がいいですよ。白ネギの下にはほうれん草とワカメも隠れておりました。これは!うまい!味がちゃんとこっちまで来てくれる!だめだ!どの店もだいたい同じようにうまい!差を表現できない!ズルズルすすってちょうどいい腹具合でご馳走様。
ここもいい雰囲気だったなー。ビールを注文してだらっと滞在したい。メニューの裏には「御来客に 皆様の御食膳に 御家庭の延長として是非当店を御利用下さい」とあった。
まだまだ行きたい店が残ってる
4店めぐってみたが、甲乙つけがたい…。なんでもない度では「清華園」が辛勝といった感じ。とはいえ、ぜひ行ってみてください!という意味ではない。本当になんでもないので!
それにしても、なんで客はこういう店で食事をしているのだろう。お店の人と仲良く喋るでもなく、たまにテレビに目をやったり新聞を広げたりしながら、黙々と食事して去っていく。今回、自分の住む町の印象の中に、これらの店で見たそんな人たちの姿が加わって、またこの辺りが好きになった。
今回行けなかった店がまだまだあるので、まためぐってみたい!みなさんも暇でどうしようもない時は近所の中華屋のドアを勇気を出して開いてみてください!
それではよいお年を!
チミドロライブ情報
2013年1月4日(金)
SCUM PARK 〜新年会〜
下北沢シェルター
開場時間 / 19:00
開演料金 / 19:30
前売料金 / 500円(2ドリンク別)
当日料金 / 1,000円(2ドリンク別)
出演 /
Have a Nice Day!
チミドロ
THE発信テレパシーズ
僕のレテパシーズ
ゲットー墓場
2013年1月13日(日)
ゲットー酒場
南池袋ミュージックオルグ
出演 /
nakayoshi group
チミドロ
…and more
八千代(千川)と香蘭(東長崎)も是非行ってみてください!両店共に美味しいのは炒飯ですが。